○第四章 帝竜討伐 ・その二 山岳のドラゴン 山が生きていた。 奇妙な光景だ。 フロワロが咲き乱れるその山は、時々小さく揺れていた。 きっと、目が覚めているに違いない。 「これが帝竜なのか?」 「ああ、そのようだな」 クロムとフィルの会話も、スケールが小さく聞こえる。 圧倒的存在感を持って、その帝竜は存在した。 個体名ジ・アースと名付けられた帝竜が。 「説明をする」 ジェッケが皆の前で声を上げた。 「ジ・アースはこの山そのものだ」 背後の山を指す。圧倒的な大きさ。 「だが、奴も生き物だ。頭をやれば滅するだろう」 そのアドバイスを送ったのはフィルだ。 彼の得意とする戦法が、ここで役に立つ。 「だが、体の各部位もやっかいには変わりない」 むしろ、頭以外の部位が攻撃を仕掛けてくるに決まっている。 だがら、ジェッケは部隊をいくつかに分けると言った。 「俺は指示を出すために背中に登る。バントロワは下、足を頼む」 「心得た」 「あとは頭としっぽだ。トライド、どうする?」 「頭は槌が効くだろう。トライドが行くといい」 トライドが答える前に、フィルが言った。最近の彼はずいぶん積極的だ。 「わかりました。フィルさんは?」 「俺はこいつと一緒にしっぽだな」 クロムを指してフィルが言う。クロムも頷いた。 エステリアはもうトライドの付属品として見られているようで、頭に参加することが周知だった。 なんだか微妙な気分のエステリアだったりする。 ただ、若干の嬉しさを感じているのも事実だ。 「兄様、必ず成し遂げましょう!」 気合いも十分。 そして彼らは山へ散った。 ***** 足下のバントロワは攪乱が主な仕事になる。 兵を用いて足下をかき乱し、気を引くという単純な攪乱。 だが。 「動いたぞ!」 分隊の長が叫ぶ。ネバン兵たちは一斉に身を引いた。 しかし。 「うわああぁぁぁ!」 逃げ遅れた兵が、巨大な足に吹き飛ばされ、体を大きくぶつける。 「厄介な奴め」 バントロワは歯噛みした。 動き自体は早くない。動く足はルシェの戦士ならば避けることが可能だ。 問題は、その後。 地面に降ろされた足が発する衝撃波が問題となっていた。 圧倒的質量であるため、地面が耐え切れていないのだ。 「まるで、地を壊すかのようだなっ!」 大剣を振り抜き、切りつけるも地面と一体となっているような肌だ。そうそう傷がつかない。 「総員引け! 次が来るぞ!」 分隊長が叫ぶ。兵は散り、振り上げられた足が降ろされた。 衝撃。 また何人かのルシェが吹き飛ばされる。 「死者がいないのがせめてものだ!」 バントロワが叫び、ネバン兵が足に殺到する。 「怯むな! ルシェの力を見せてみろ!」 大声を張り上げる分隊長の元、いや、もっと言うならバントロワの元。 ルシェたちは己のなすべき事を、忠実に、確実に実行していた。 「総員引け!」 ほぼ同時刻。ジェッケも叫んでいた。 ルシェが身を引いたその場所に雷が落ちる。 「おいおいおい、こんな背びれなんてあるのかよ」 雷を落としたのは間違いなく背びれだ。 どうやらこの背びれは雷の力を吸収、放出しているらしい。 「おい、何人か来い」 「はいよ」 ジェッケの言葉に応えたのは、一人の飄々とした若者だ。 出で立ちから、トライドと同じ癒し手だとわかる。 「どうするんだい?」 彼は小隊の長らしく、ルシェを何人か従えていた。 「破壊するに決まってんだろ」 ジェッケはいつものように不敵な笑みを浮かべていた。 フィルとクロムは善戦していた。 ルシェのサポートがあるとしても、この二人の戦いは小慣れている。 「くああぁぁぁ!」 クロムが斧の一閃で道を切り開き、 「ひゅっ…」 その僅かな隙をフィルが駆け、尾を切り裂く。 鮮やかな手並みだった。 トライドたちにもネバンから一小隊がついている。 ルシェの戦士たちはよく訓練されており、道の途中にいるドラゴンにも迅速に対処した。 「しかし、ドラゴンの背中にドラゴンってのは変な感じだよなァ?」 小隊の長が言う。 フィルと同じような盗賊風の男だ。獲物の弓を携えている。 名は確か、バルフィット。年はトライドたちよりも一回りは上だろう。 「ドラゴンも色々あるんだなァ」 さっきから感心しているのか何だかよくわからない。 ずっと笑みを崩さないし、楽天家なのだろうか。 「おっと」 来た! ドラゴンだ! 「よっしゃァ、皆よ、しとめるぜェ!」 弓使いなのに最前線に出てくるし、訳のわからない男だ。 トライドは槌を振るいながら、そんなことを思った。 エステリアがドラゴンを斬り捨て、間もなく戦闘は終了する。 「やるねェ、お嬢ちゃん」 バルフィットがエステリアの肩をたたく。 ぞわぞわっ。肩が震えた。 「兄様…私、あの人が苦手かもしれません…」 エステリアは震えながら、トライドに言った。 ***** フィルとクロムがしっぽを切り落とし、頭頂へ向かっていた時のことだ。 「何をしている」 ジェッケが息も絶え絶えに岩影で休んでいた。 「いやさ、雷から逃げ回ってたらこんな感じよ」 よっこらせ、と立ち上がる。まだ息は荒い。 「雷?」 「ああ、雷だ」 ジェッケは背びれを指す。なるほど、帯電した背びれをネバン兵たちが処理していた。 「斬っちまえば雷は止んだが、なんだかなあ」 「まあ、それが帝竜というやつだろうさ」 「お前は慣れてるのな」 「二度もやってるんだ。慣れもするさ」 お前は? と聞かれて、クロムは肩をすくめた。 「さてね、俺はまだ戦ったことがないんでわからんよ」 ジェッケは指揮のために残ると言うことで、部隊を再編し、進行を再開した。 フィルとクロムには、ルシェの小隊が一隊同行した。 ジェッケの持つ隊ではエース級らしい、例の癒し手が率いる部隊だ。 「よろしくな、ドラゴン狩りの英雄さんがた」 大振りの杖を持つその若者は、爽やかな笑みを浮かべた。 はずなのだが、何か胡散臭い。 「なんか、お前と似た臭いがするな」 とはクロムがフィルに向け発した言葉。なかなかに手厳しい。 「仲良くやろうさ」 癒し手の名は、ヌラトリィというそうだ。かわいそうに、名前も胡散臭い。 「で、これは何処へ向かってるんだい?」 ヌラトリィが聞く。 「加勢しに向かっているに決まってるだろ」 「ああ、成る程ね」 ヌラトリィは肩をすくめて同意した。 ドラゴンはあらかたトライドたちが片づけているようで、道には死骸が転がっている。 時々、ルシェ兵がうずくまっているのだが、死んではいない。 トライドにキュアを受けた後、休んでいるように指示されたという。 「ほお、なかなかの癒し手じゃないか」 癒され方を見て、ヌラトリィが言う。そういうものらしい。 「そうだな、確かにオークザインやクーゼルヘルよりは上手だな」 「クー…何だって?」 「クーゼルヘルさ。歌姫だ」 フィルがそう言った途端、ヌラトリィの顔色が変わった。 「お前ら、女の子と旅してんのか!?」 俺はこいつらの仲間と違う、と言い掛けたクロムだが、『誓いの種』にも女性がいたことを思い出した。 彼女は、今頃あの廃墟の街をさまよっているのだろうか。 彼女たちを解放してあげるためにも、早くジ・アースを滅ぼさなければならない。 そんなクロムの思いとは裏腹に会話は進む。 「くっそー、羨ましいなあオイ。オレらは男ばっかりだぜ」 確かにヌラトリィの部隊は男ばかりだ。 いや、ルシェ兵全般で男率が高いのだ、きっと。 「女ならバントロワがいるだろ?」 「あんなの女じゃねーよ!」 なんだかよくわからない理屈を展開するヌラトリィの相手をしていると、突然フィルが黙った。 空気をクロムが、ヌラトリィが読む。ヌラトリィは同時に兵たちの動きも止めた。流石に優秀だ。 「鋭い音、刃だな」 フィルが音の方向へ走り出した。皆が続く。 開けた広間。そこに── エステリアがいた。刀を構えてじりじりと睨みつけている。 彼女が睨んでいるもの。それは、 「背びれ…いや、角か」 角は意志を持つように跳ね動く。 「フィルさん!」 視界には入っていなかったが、トライドもいるようだ。 声の方を向けば、兵を介抱するトライドの姿。 「手間取ってるな、手を貸すぜ」 クロムは斧を構え、それを合図にフィルたちも臨戦態勢に突入する。 「気をつけて。針には毒があります!」 そう。あたりにはルシェ兵が散り散りにうずくまっていた。皆、毒に蝕まれていいるようだ。 「こいつはいかんな」 ヌラトリィも毒を受けた兵の介抱に回った。 「エステリア。どんな感じだ」 針を器用に避けるエステリアに、フィルは近づいた。 「刃が跳ね返されるんです」 ふむ。フィルは考えた。さっきの音は確かに刃同士がぶつかった音に近い。 「私だと少し力が足りないように思います」 確かに、並のドラゴンならば工夫次第でエステリアでも切り捨てられる。 だが、ただの大きなパーツだけなのだ。弱点が見つけづらい。 「そうだな、それじゃあとっておきの一撃ならどうだい?」 クロムが言った。 「なあ、そこの弓使いさんよ」 「あ、やっぱり気づいてたか」 バルフィットが現れた。何の前触れもなく。 「いやさ、奇襲を仕掛けようと思っていたんだが、タイミングがわからなくてねェ」 それに聞きもしていない理由まで言ってくる。 「ごたくはいいさ。あんた弓の腕は?」 「名手だ」 「なら安心だ。俺と組んでくれ」 クロムがバルフィットに言い放った。 「…あんたも面白いねェ。名は?」 「クロム」 「よし、クロム。あんたと俺でアレを何とかしようぜェ!」 バルフィットはクロムと組むことを承知したらしい。 気配を消しながら弓を構える。 「っしゃぁ!」 クロムも斧を眼前で構えた。 「トライド、お前たちは先に行け」 目線は角に固定したまま、クロムは言う。 「やっぱり帝竜にとどめを刺すのはお前たちの役目だと、俺は思う」 その背中は何かの感情を示しているようで、読みとれない。 「ですが、この毒を…」 「ああ、それはオレがなんとかするさ」 ヌラトリィが言った。 「ちょいとマナを使うが、全体にキュアをかけてみよう」 そう言いつつ、内なるマナに働きかける。 「な、憂いていても仕方がないさ。お前らの目的だろう?」 そう。トライドの使命は… 「わかりました」 トライドは決心した。エステリアが頷く。 「フィル、お前も行ってくれ」 「ああ」 言葉だけで二人は通じ、フィルがトライドの側に来る。 「何人か、あいつらに付いて行ってくれ」 バルフィットの言葉に、動けるようになった数名のルシェがトライドの元に参ずる。 「行きます」 「ああ」 「死ぬなよ」 「今度ばかりは誰も死なせないさ」 いつかの帝竜戦、それにバ=ホの戦い。 もう、仲間を失うのはたくさんだった。 ***** 「さて、見栄を張ってみたがねェ」 バルフィットが言う。 「勝算はあるのかい?」 「勿論だ」 クロムは自信満々に答えた。 「まずは渾身の一撃を入れる」 「それから?」 「折るまでこいつを叩きつける」 「力業かよ! …しかし、悪い気はしねェ。任せるさ」 そして矢が、それこそ矢継ぎ早に放たれ、 「フォロアッ!」 クロムがその矢に追撃を仕掛ける。が、 「ぬあっ」 毒針が地面から生え、クロムの左のふくらはぎを掠った。 とたんに全身を襲う痛さ。これは訓練を受けたルシェたちでも厳しい。 危うくクロムもその辺りに転がるルシェと同じようになりかけた。 「待たせたな!」 しかし、ヌラトリィがブーストしたキュアが素晴らしいタイミングで皆を癒す。 「っしゃあ!」 その間もバルフィットは矢を放ち続けていたので、再度追撃。 「フォロア!」 渾身の一撃が、今度はきちんとヒットする。 カキイィィィン 硬質な音。 「どうだ?」 ヌラトリィが身を乗り出す。 「いや、まだだ」 クロムは油断なく斧を構える。 角には、傷一つなかった。 トライドは、その目と向き合っていた。 「ジ・アース」 フィルがその名を呼ぶ。 「私たちを認識しているのでしょうか?」 疑問をエステリアが口にする。 「たぶんわかっているよ」 トライドは、なぜかこの帝竜が憎めない。 今まで見た帝竜(はたった二匹だったが)とは何かが違う。 そして、気づいた。 「そうか…」 ジ・アースは、ずっと長い間ここに居た。気づかれないまま、そっと。 途方もない年月を。 このドラゴンは、来るべきこの時のための仕掛けだった。 今までの帝竜は滅びを撒くために飛来したものだ。 ならば、このドラゴンは何のために存在するのだ? まさか── 「いや、そんな馬鹿な」 考えが恐ろしくてかぶりを振る。 その時、ジ・アースの瞳が輝いた。 「人間は大人しく死を待つこともできんのか…」 深い悲しみを持って、その帝竜は呟いた。 「そちらこそ大人しく滅びてくれ」 フィルが光を取り戻した目に短剣を突き立てた。 「そうだな、どちらか一方が果てるのみだ」 ジ・アースはそう言って、首をもたげた。 「それ!」 バントロワは一閃、剣圧でジ・アースにこびりつく岩を剥がした。 「成る程な、こうするわけか」 ジ・アースにとって岩は鱗のようなものだ。 それを剥がせばある程度強い攻撃なら通る。 「総員、行くぞ!」 号令の元、ルシェの戦士が殺到した。 「次で何発目だ?」 ヌラトリィが聞いた。 「まあ、30ってとこだな」 答えるクロムは汗だくだ。この角は相当に固い。 何度打ち込んでも折れないのだ。 時々当たる毒針から送られる毒のダメージも、ヌラトリィが癒していた。 「だが、もうちょっとだぜェ」 バルフィットが矢をつがえる。クロムが構え、その矢を追った。 角には細かなひびが無数に入っている。 もう少し、確かにそうだった。 ジェッケは急いでいた。 「こりゃあやべえな」 山が鳴っている。 トライドたちは気づいているのだろうか。この鳴動。 ルシェの心の底にある何かを呼び起こす、その空気を。 いや、ルシェだけではない。生きるもの全ての本能を、この揺れは揺さぶる。 おそらくそれは、最も原始的な感情。 その名が恐怖であることを、ジェッケは知っていた。 だから急ぐ。奴の頭に。このドラゴンを倒す為。 「だあぁぁぁ!」 トライドの槌が表皮を抉る。 エステリアの刀はドラゴンの目を傷つけ、フィルの短剣は少しずつではあるが鱗を削っていた。 「くそっ、桁が違うぞ」 フィルが言うこともわかる。 巨大が故に、なかなかダメージを与えるところにまでたどり着けないのだ。 「ですが、攻撃し続ければ」 トライドは諦めない。 それによって皆が諦めない。 そういった連鎖を起こしていた。 ネバンの兵士たちも、トライドらに負けじと武器を振るっていた。 熱が渦巻く。それは闘志という熱だった。 「待たぬと言うなら与えよう」 ジ・アースが動いた。 激しい揺れに数人のルシェの戦士が振り落とされ、落下してゆく。 トライドたちはなんとか耐えた。そこに。 ドンっ 激しい重みがのしかかってきた。 「ぬぁ…なんだこれ…」 重みはあるのに、何ものしかかっていない。 「魂の圧縮…その身にくらうがいい」 ジ・アースの傷ついた瞳がものを言う。 「魂の圧縮…?」 圧力を感じながら、トライドは呟いた。 エステリアは圧力に抗しきれず倒れ、フィルはなんとか耐えているが、動けない。 (魂の圧縮…マナではない、ソウルにかかる圧力…) トライドは考えた。自分がこの圧力に抗する方法を。 そうでないと、ジ・アースが体を揺らすだけで自分たちは全滅だ。 「考えるんだ…自分をしっかり保てよ、トライド」 自らに言い聞かせる。 と、その時、ふと体が軽くなったような気がした。 いや、気のせいではない。圧力が弱くなった。 動ける! 本能なのか、トライドは駆けた。 ジ・アースに決定的なダメージを与えられる場所はどこだ? 作戦通り、頭頂か? いや、頭頂は未だに固い。槌は通用しなかった。 ならば何処だ? 「トライドぉ!」 誰かが叫んだ。ジェッケだ。 魂の情報さえ影に隠した彼は、ジ・アースの攻撃を避けていた。 そして、今、一瞬の時を使い、奇襲を行った。 狙うはドラゴンの目。 渾身の一撃が、ジェッケの刃が瞳に深く突き刺さる。 そこにトライドは続いた。 気配を現したことでジェッケが圧力をくらい倒れるのを横目に、それでも走る。 大きく振りかぶり。 「だあああぁぁぁぁ!」 フルスイングした槌は、ジェッケの刺した刃をジャストミートする。 その勢いで、刃は埋まり、ドラゴンの眼球を貫通した。 「おおおぉぉぉぉ!」 回転の勢いを殺さず、第二撃。 完全に埋まった刃の、その通った跡へ、槌を投げ入れた。 それはまさに、奇跡の確率。 トライドの槌は、その先端は、ジェッケの刃の柄を後ろから押しだし── それによって、刃はジ・アースの脳にまで埋まった。 「はあ、はあ、はぁ…」 肩で息をするトライドの目の前で、ジ・アースは動きをゆっくり止めていく。 そして、息も整ってきた頃、その活動は完全に停止した。 同時に魂の圧縮も停止する。 ジ・アースは、その体躯を残したまま息絶えたのだった。 ***** 「へへっ、やるじゃねえか」 ジェッケが立ち上がった。 「いえ、ジェッケさんの助けがあればですよ」 「いや、あれはたいしたもんだ。並の精神力じゃねえ」 圧縮のもたらす力を体験しているので、素直に褒めた。 「兄様」 と、そこへエステリアがやってきた。 「大丈夫か?」 妹に聞いた。エステリアは答える。 「兄様に治療して欲しいです」 その後ろには、ヌラトリィとクロム、それにバルフィットの姿があった。 なるほど、ヌラトリィはエステリアを治療する気満々だ。 「あ、そうだ。ジェッケさん」 エステリアの治療をしていて思い出した。 残っていたネバン兵に指示を出していたジェッケが寄ってくる。 「どうした?」 「ジェッケさんの武器が…」 そうなのだ。トライドの槌もそうだが、ジェッケの武器も同じくジ・アースの体内に埋まってしまった。 「ああ、気にするな。コイツを倒す代価だと考えれば緩いものさ」 事も無げに、ジェッケは言った。 「それより、お前さんの方が大変じゃないのか?」 ジェッケと同様に、トライドも武器を失った。 「いえ、まあ…また見つけますよ」 木の槌では、限界を感じてきていたのも確かだった。 新たな武器を探さなければならない時期なのかもしれなかった。 その後、トライドとヌラトリィ、それにネバンの衛生兵による応急手当も終わり、 「それじゃあ凱旋すっか」 との軽い一言で、この戦いは終わった。 ***** 何事もなく、バ=ホまでたどり着いた。 「おお、すげえな」 フロワロとドラゴンは完全に消滅していた。 「ここからこの街は立ち直っていくんだな」 トライドは呟いていた。 自分たちもそれを経験していたのだ。 カザンは今、どうなっているだろうか。 メナスとはプロレマで会ったが、それ以外の人とは会っていない。 皆元気にしているだろうか。 「さて、俺たちゃあネバンに戻るが、お前らどうするんだ?」 ジェッケが聞いた。 「プロレマからの連絡もまだですし、ここの復興に力添えしようと思います」 トライドは答えた。 「なるほどな。そりゃあいい。おい!」 気をよくしたのか、ジェッケはヌラトリィとバルフィットを呼んだ。 「お前ら、トライドたちに力を貸してやりな」 ヌラトリィは呆気にとられた。が、 「いいぜェ」 バルフィットは乗り気だ。 「ちっ…しゃーねーな」 頭を掻き、ヌラトリィも言った。 「フロワロが消えたと知れば戻ってくる人もいるだろう」 フィルが言った。 「そうだな。それまでの下地を整えておいてやれ」 その言葉を受け、バントロワが続いた。 「りょーかい」 ヌラトリィは気合いがあるのかないのかわからない声で言った。 こうして、ネバンプレスはつかの間の勝利を手に入れた。 トライドたち『偉大なる風』、それに『誓いの種』の協力がなければこうはいかなかったかもしれない。 ハントマンと国軍が協力することがいかに強固であるか。 この戦いは、その一つの答えであったのかもしれない。