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君と見る虹その2

「やっぱり向いてないのかなあ……」
何回やっても何回やってもサッカーボールが蹴れないよ。
どうしてなんだろう。
とぼとぼと家に向かう道を歩きながら、何度も疑問が浮かび、
その度に答えが見つからず、無理やり疑問を鎮めていく。
隅田川に出た。川原からは夕日が見える。
綺麗な夕焼けも、僕の心の「嫌な事」を流し去ってはくれない。
「はぁ」
ため息。まさか人が聞いているとは思わなくて、
「そんな景気の悪い顔をしていると幸せが逃げちゃうよ」
女の子が話しかけてきて飛び上がるほど驚いた。
「うわお!」
比喩じゃなく本当に飛び上がっちゃった。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
女の子は呆れ顔だ。知り合い、じゃないな。
でも、どこかで見たことがあるような気もする。
「いきなりだったからね。ところで、君は?」
「私? そこのラーメン屋の娘」
「ああ、ホープ軒」
ホープ軒は最近学園で話題になっているラーメン屋だ。その理由は、
「じゃあ君が巷で話題の看板娘?」
かわいい女の子が働いているという情報があるからだったりする。
「うーん、その噂の子は私じゃないと思うよ。私はたまに手伝うくらいだし」
どうやら違うらしい。
まあ、娘ってことは手伝う時もあるはず。その時に見たんだろうな。
あれ? でも僕はホープ軒行った事あったっけ? 覚えてないや。
「なあに? ちょっとがっかり?」
「聞いてみただけだよ」
「ふーん……あ、貴方名前は? 私はみっちゃんでいいよ」
「僕はしゅんすけ」
「しゅんすけ君か。で、なんでため息ついていたの?」
なんだかズバズバと聞いてくる子だなあ。
でもそれが不思議と不快にならない。
「ちょっとね。どうしてもできないことがあったんだ」
サッカーができない、と言ったら彼女はどんな反応をするだろう。
それしきのことで、と笑うかもしれない。
そんな恐怖から、僕は誰にもサッカーができない話はしていない。
唯一、先輩を除いて。
ま、先輩の場合は先に「サッカーやる」って言っちゃったから仕方がない、かな。
できれば先輩にも知られたくはなかった。
すぐ上手になって颯爽とサッカーデビューする予定だったのに、予定と全然違う状態になっちゃってる。
どれだけ頑張っても、サッカーのサの字すらできないんだ。
「どうしても、ってのは、努力じゃ本当にどうにもならない時に使うものだよ。
 しゅんすけ君は、それくらい努力をしたの?」
だから、みっちゃんのこの質問には強く断言できる。
「したよ! これだけは絶対に言える!!」
言い切った。こんなに強く言えるだけの努力を僕はしてきた、と思う。
実ってはいないんだけど。
「何か事情があるんじゃないの? 話してみない?」
「いや、でも……」
今日会ったばかりの女の子に話す内容じゃないと思うんだけど。
「うちで晩御飯おごっちゃうよ」
「話すよ」
即答していた。
本当は、この僕の「サッカーできない病」を誰かに知ってほしかったんじゃないかと思う。
まあ、噂の看板娘を見たいってのもあるんだけどね。


「それは、多分、君の『能力』だよ」
「『能力?』」
「そう。しゅんすけ君は15歳だよね? だったら説明がつくんだけど」
「……? 15歳だよ。言ったっけ?」
「ううん、『能力』を持っているのは私たちと同世代しかいないの」
「どうして?」
「あの『壊滅』の時に生まれたからよ」
『壊滅』……僕が生まれた時に起こった事件か。
「『壊滅』……マサカドインパクトの時に生まれた子どもは、特殊な能力を持つの」
「ということは、君も」
「ええ、私もMICよ」
「でも、僕は自分の能力なんて知らされていないよ」
「まあ、MICの知名度も比較的低いし、貴方の能力は分かりづらいからね」
「『ボールを蹴ると使い物にならなくなる』っていう力?」
「そうそう。それもまだちゃんと決まったわけじゃないしね。
 もしかすると『ボールを全部つぶしちゃう能力』かもしれないし」
確かに、僕はサッカーをしようとしていたわけだから、蹴ることしかしていない。
「ね。確かめてみましょ、貴方の能力」
みっちゃんは興味津々だ。僕も気になってきた。
「うん、それ面白そう」
「じゃあ決まり。明日から一緒に確かめましょ」
「オッケイ」
それからの話はトントン拍子。毎日放課後に川原で落ち合うことになった。
名目は……そうだな、修行にしよう。
先輩にする言い訳を考えている僕が、ちょっと女々しい。
「楽しくなりそうだねえ」
みっちゃんは終始ニコニコしていた。
MICの仲間が出来て嬉しかったんだと思う。
僕は、どうなんだろう。いきなり『能力』なんて言われても、正直困る。
でも、裏づけはあるんだ。僕の中に。とても確信めいたものが。
だから、確認したい。僕がどういう存在なのか。

―つづく―

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