sister's power > ソワカちゃん > きみにじ3
君と見る虹その3

翌日の放課後。約束どおり、川原へ向かおうと正門を出たところで、
「あ、先輩」
幸か不幸か先輩と鉢合わせになってしまった。
「あれ? しゅんすけ君、今日は帰っちゃうの?」
「ええ、ちょびっと私用で」
「チベット」
「修行に」
「コスタリカ」
「私用で修行なの?」
「ベルギー」
「ええ、ちょびっと私用なんです、すいません」
「ウクライナ」
「しかし、この人は誰ですか?」
「お隣の学校の人よ。最近知り合ったの」
「パラグアイ」
「何でも国旗をすべて知っているらしいから、ちょっと手を貸してもらおうと思って」
そう言って先輩はプリントを取り出す。地理のレポート課題みたいだ。
なんだか小難しいことが書いてある。ぼくにはとてもできない。
「はあ、そうなんですか」
「じゃあ、修行頑張ってね」
「カザフスタン」
「はい!」
先輩(ともう一人)と別れ、川原へ向かう。
世界の国と国旗をを全部覚えてるなんてすごいな。
僕の『能力』もそういう勉強に役立つものだったらいいのに。

「おまたせ」
「お、来たね。それじゃあ修行を始めよっか」
早速サッカーボールを取り出すみっちゃん。準備がいいなあ。
「まずはいつものように練習してみてよ」
「僕の『能力』がどんな出方をするか確認もできるし?」
「そうそう」
みっちゃんはおお張り切りだから、しばらく任せてみよう。
そして、いつものように僕はサッカーの練習をはじめた。
そして、いつものようにサッカーボールは使い物にならなくなった。

「これ、空気抜けてるだけだよね?」
「うん、そうだよ。空気を入れたらまた使えるはず」
「はず? ……あ、そうか」
「僕は使えるか知りようがないもん」
いつものように使えなくなったサッカーボール。
みっちゃんがあれやこれやと確かめている。
僕が蹴ったことでサッカーボール自体が破裂したりした訳じゃない。
大きな傷ができている訳でもない。
だからもう一度空気を入れなおせば、ちゃんと元のボールに戻る。
まあ、戻っているのは見た目だけかもしれないんだけど、
それを僕が確かめることは、みっちゃんに言った通り無理ってもん。
確かめに蹴っても空気抜けちゃうからね。
「じゃあ、空気入れてもう一回やってみよっか」
……それも確かめるらしい。
「わかったよ。空気入れある?」
「もち。準備は万端なんだから!」
嬉々として答えるみっちゃん。
空気を入れるのは、勿論というか、やっぱり僕の仕事だった。


「今日分かったことは、『ボールの空気が抜ける』ってことだね」
「うん、100回もやれば間違いないよ」
数時間経って、修行は切り上げた。今はホープ軒の中だ。
みっちゃんとテーブルで向き合っている。
「ラーメン2つ、おまたせ」
「あ、どうも」
噂の看板娘さんがラーメンを運んでくれた。
みっちゃんが奢ってくれるらしいんだけど……
「ん? 遠慮しなくても奢りでいいよ」
「いや、でも……」
「私はここの娘なんだから気にしなくていいの」
そういう問題なんだろうか。
「みっちゃんが男の子を連れてくるなんて初めてだもの。
 素直に奢られておきなさいよ」
と、看板娘さんまで言ってくる。でもその後、
「まあ、ここの娘といえどもお代は頂くけどね」
なんてことを続けるもんだから、やっぱり気が引けるんだけど。
「もう、ソワカちゃん話が違うよ!!」
みっちゃんの反論が始まる前に、看板娘さんはカウンターに消えていった。
なんだか、みっちゃんをあしらうのにとっても慣れている感じだ。
「もしかして、みっちゃんって結構ただ飯してない?」
「だって、ここ自分の家だし」
そういう問題でもないような気がする。
「でも、お客さんの前ではあんまりよくないんじゃない?」
お客といっても、僕らともう一人いるだけなんだけど。
「そお?」
体面ってのがあるでしょ、普通。
「まあ、ラーメン食べてから考えましょ。伸びちゃうし」
確かにそれは真理。僕は割り箸を割った。

「それで、明日なんだけど」
スープを最後まで飲み干して、みっちゃんは言った。
「うん」
ちなみに僕はまだ食べている最中。みっちゃん食べるの早いなあ。
「他のボールでも蹴ったら空気が抜けるのか確かめましょ」
うん。僕は頷く。まだ口の中にラーメンがあるから。
「とりあえずできるだけの種類のボールを集めてみるね」
「僕は何をすればいいのかな?」
「うーん、とりあえず、怪我しないように」
「それだけ?」
「そ。それだけ。しゅん君はちゃんと体調を整えるのが仕事だよ」
うーん、なんだかその言葉だけ聞くとデキるスポーツ選手みだいた。
「わかった。とりあえず了解するけど、無理しないでよ」
「大丈夫大丈夫。任せて」
そんな感じで修行と証する実験の一日目は幕を下ろした。
しかし、みっちゃんはいつの間に僕をしゅん君なんて呼ぶようになったんだろう。

―つづく―


その4へ

その2へ

タイトルへ
inserted by FC2 system