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君と見る虹その9

「しゅん君」
みっちゃんは振り向かずに言った。
「来ないかと思った」
「言いたいことがあるんだ」
今まで生きてきた中で、一番真剣な声を出す。
「言いたいことって?」
みっちゃんがこちらを向く。さあ、しゅんすけ。ここが正念場だ。
「昨日からずっと考えていたんだ――」
心臓がバクバクする。
「昨日、これでみっちゃんとサヨナラなんだと思ったら、すごく悲しかった」
あのモヤモヤは、色んな感情が混じっていたものだったんだ。
「それに、嫌だった。みっちゃんとこれで終わりになるのは」
「うん。それで?」
みっちゃんが立ち上がる。
「だから、トモダチって認めてくれて嬉しかった。でも、なんだか違う」
たどたどしい僕の言葉を、真剣に受け止めてくれるみっちゃん。
「そして、気づいたんだ。まあ、気づくのが遅すぎるんだけど……」
そこで深呼吸。あー、緊張するなあ。
「気づいたんだ。僕は、みっちゃんが好きだってことに」
あー、言った。言ってしまった。
みっちゃんの反応をうかがう。
な、なんで涙!?
「み、みっちゃん……?」
「遅いよ。もう。振られたと思っちゃったもん……」
みっちゃんは、涙を流しながら笑う。とびきりの笑顔で。
「私も、しゅん君のことが好きだよ。好き、しゅん君」
みっちゃんも、好きだと言ってくれた。
「ありがとう。あと、ごめんね」
「どうして謝るの?」
「僕、鈍感だった。とってもとっても鈍感だった」
本当、鈍すぎる。自分の気持ちに気づくのだって、遅すぎるよ。
「いいの。好きって言ってくれただけで、いいの」
そう言いながら、みっちゃんは僕に抱きついてきた。
「うん。ありがとう。みっちゃん、好きだ」
「私も」
ぎゅっと抱きしめる。ずっと、こうしていたかった。

「しゅん君が聞こうとしなかったから言わなかったけど」
しばらく後、僕らは二人で土手に腰掛けていた。
「私の『能力』って、『動物の言葉がわかる』ことなんだ」
「へえ、それってすごいじゃん!」
僕なんかとは大違いだ。
「大きい子の言葉はわからないけどね。それに、きついんだよ、この『能力』も」
みっちゃんは自嘲気味に笑って言う。
「意識しなくても声が入ってきちゃうんだ。最近はちょっと制御できるんだけど」
それは、騒がしそうだ。
「それに、何が一番大変って、動物たちは純粋だから……
 逆に人間に悪意があるとすぐにわかっちゃうんだよね」
「つまり」
「うん。判っちゃうんだ。色んな人の悪意が。ちょっとしたことでもね」
そうか、みっちゃんは、常に悪意に晒されていたのか。
「だからね。私は人間が好きじゃなかった。みんな怖いもん」
確かにその環境だと、人間不信になりなさいと言っているようなものだ。
「でも、しゅん君は違った。どうでもいいことに真剣に悩んでて」
「どうでもいいことって……そりゃないよ」
「いいのいいの。そのおかげで、私はしゅん君と仲良くなれた」
そこで、僕の方を見て、言った。
「しゅん君が純粋だから、私は好きになれたんだ」
「純粋?」
「ひたむきさ、と言ってもいいかな。しゅん君には雑念がなかった」
それじゃあ僕がまるで聖人君子みたいだ。
「まあ、何も考えてなかっただけじゃないの?」
「サッカー馬鹿に近いかもね」
「あー、なんとなくわかったよ」
「それに、しゅん君はいつも頑張ってた。だから、好きになったんだ」
「僕も、みっちゃんの言葉にはいっつも励まされたよ」
地面に置いた手に、みっちゃんの手が重なる。
「しゅん君がいてよかった」
「ぼくも、みっちゃんと会えてよかったよ」
二人の目が合う。
みっちゃんが目を閉じた。
これは、勿論、そうだよな。
震える手で、みっちゃんの頬に触れる。
そうして、僕らは始まりのキスをした。

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