sister's power > ソワカちゃん > 荒野の3
荒野に架かる虹 その3

俺は、こんなところで何をしているのだろう。
そんな考えが、一瞬頭をよぎる。
「ウノ」
しかし、前の男が発したその声によって、考えは彼方へ消える。
くっそー、こっちはまだ4枚も残ってるぞ。
ドクペを飲みながら考える。
隣の奴が出したのは黄色の7だ。
黄色の3があったのでそれを出す。
「ドロフォー」
ナイス! これでまだ分からないぞ!
ドクペを一気に飲み干す。
それで、俺はこんなところで何をしているんだ?

きっかけは、今日の朝のことだ。
「ちょびっと私用でチベット修行へ行って来る」
はあ!?
いきなりすぎないか、おい。
「な、どうして?」
「そうだなあ、色々考えたんだけど、やっぱり行こうと思って」
ああ、そうだな。
仲の良かった住職が亡くなってからずっと何か考えているみたいだった。
でもな、親友の俺にも相談くらいしてくれたって良かったはずじゃないか。
「もう決めたのか?」
「決めた。私は娘を守れるくらいになりたいんだ」
「今だって十分じゃないのか?」
「何かが足りないんだ。それに、今のわたしでは
 『そんなところに神は宿らない』と彼に言われてしまうだろうね」
どうやら相当な決意のようだ。
「なら、言うことはないな。言っても無駄だ」
「すまない。それと、もしもの時は娘を頼む」
「やだよ。『もしも』の前に戻って来い」
「……ありがとう」

それから何をしていたのかはさっぱり分からない。
戦略的(ストラテジック)に判断停止(エポケー)とはこのことだろうか。
俺にとってあいつは結構な存在だったのか、それとも
親友でありながら何もしてやれなかったことに悔いているのか、
そんなことはもう分からない。
いつの間にか荒野をフラフラと歩き、
気づいたときにはこの荒んだ街でひたすらUNO三昧だ。
「スキップ」
おい、俺を飛ばすなよ!!

「ウノ!」
ようやくあと1枚だ。頼むから緑にしてくれよ。
グシャッ!
おいおいおい、なんでみんな一斉に立ち上がるんだよ。
ん? あっちで何か騒ぎが起きてるな。
みんなそっちへ向かっているし、行って見るか。
あれは女の子? ツインテールの少女だな。
おいおいおい、なんで吊るしちゃうんだよ。
スカートの中が見えちゃうじゃねーかよ。
あ、しま……じゃねー!
って少年も後ろで吊るされてるし。
何があったんだ? 悪いことでもしたのか?
『そうだよ、彼女は罪人だ。ゆえに隔離する』
っつ。何だ今の声は。脳に直接響くような声だな。
まあいい。UNOだ、ドクペだ。
今度こそ一番で上がってやる。
一瞬にして、そう、本当に一瞬で、吊るされた二人のことは忘れ去ったんだ。

「ウノ!」
結局まだ一勝もできていない。
だが、今回は違う! 他の奴はまだ結構な枚数が残っている。
これは、勝ったな。
『隔離者が塔を脱出した! 排除せよ!』
っつ。なんだ、またあの声だ。
脱出? 始末? そうすれば俺が一位で上がれるのか。
なら、ちょっと行ってみよう。
お、お前らも一緒に来るのか。じゃあ一緒に行こうぜ。
一緒にUNOをしていたメンバーとその場所へ向かった。
向かったはいいのだが。そこはまさに戦場。
どうやったかは知らないが塔を脱出した少女(しまパン)と少年は
周りに群がる悪鬼羅刹としか言えない者どもをなぎ倒していく。
特に少女(しまパン)は武器みたいなのからビームを出して
バンバン吹っ飛ばしていく。時々少年も巻き込まれているんだが……
しかしあの光。美しい。神々しさすら感じるな。
「クーヤン! 時間かせいで」
「そんな、いきなり言われても困るよソワカちゃん」
「何とかしなさい」
「分かったよソワカちゃん」
お、少女が何やら必殺技を繰り出すらしい。
これは物陰にでも隠れていたほうがよさそうだ。
急いで物陰に隠れた瞬間、激しい光が辺りを覆った。
これは、虹色の光。
なんだ、この光は。
心につっかえていたものが、流れ落ちていくようだ。
ああ、お前が何のためにチベットへ行くか、なんとなく分かったような気がする。

気がつくと、辺りは散々な有様だった。
人はバッタバッタと倒れ、建物は倒壊、炎上。
死者は見た感じはいないようだが、この様子だといてもおかしくはない。
しかし、なぜ俺はこんなところにいる?
それにUNOだ。なぜあんなにムキになってやっていたんだ?
答えはおそらく分かっている。
だが、あえて出さないことにしよう。

倒壊したこの街を、俺は早々に去った。
家に帰り、寝て、起きて、働く。
ただの日常に戻ったのだ。
変わったことは、親友が遠くへ行ったということ。
それだけなのだ。
しかも奴は死んだわけじゃない。
帰ってくれば、会えるのだから。
それまで、娘さんくらいは影ながら見守っておいてやるよ。



―終幕―

戻る
inserted by FC2 system