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君と見る虹その5

次の日は、ずっと今までの実験のことを考えていた。
授業なんて右から左へ抜けていくだけ。
授業以外もそうだ。友達の言葉も全然入ってこない。お昼さえ食べた記憶がない。
気がつくと放課後になっていた。

「しゅんすけ君!」
川原へ急ぐ僕に、懐かしい声が聞こえた。先輩だ。
そういえばこの二週間、先輩とは言葉も交わしていないことに今気づく。
「しゅんすけ君大丈夫?」
「へ? ピンピンしてますけど」
どういう意味なんだろう……? 別に変な事件とかはなかったはず。
「だってこの二週間くらい顔を見なかったから……そう。良かった」
無駄に心配させちゃったみたいだ。
「大丈夫ですよ。そうそう簡単にくたばりはしないです」
「そうね。それじゃ、一緒に帰ろっか」
先輩が誘ってくれた。でも、僕には――
「すいません、用事があるんです」
「……そう」
なんだか分かったような顔をして、先輩は言った。
「しゅんすけ君、ちょっと変わったね。大人になった、のかな?」
な、な、な……
「なんですかそれは。からかわないでくださいよ」
「いやいや、女の勘は良く当たるよ。隠すならそれでもいいけど」
「別に隠すとか、そういう問題じゃないと思うんですけど」
「そう? でも、しゅんすけ君からは、なんだか恋の匂いがするんだけどなー」
僕はそんなに変な臭いんだろうか。
「うんうん。じゃあ、頑張ってね」
なんだかよく分からないまま、先輩は帰ってしまった。
「何だったんだろう……」
よく分からないまま、僕は川原へと向かう。やっぱり、胸がズキッとした。

「あれ?」
川原ではいつもみっちゃんが待っていて、僕が合流するというのが普通だ。
今日もそのはず、なんだけど、どこを見渡してもみちゃんの姿がない。
うーん、どうしたんだろう。
仕方がないから川原で寝転んでみっちゃんを待つ。

ガシャガシャガシャ

ん? 来たのかな?
体を起こす僕。と、そのすぐ横を何かが通り過ぎた。

キキーーーッ! ズルッ

僕の横を通り抜けた自転車は、そのまま土手を直進し――

グシャッ!

なんだか嫌な音がしたけど、大丈夫なんだろうか。
恐る恐る音のした方向を見ると、それは見事に自転車の下敷きになった人が。
ってそんなに悠長に見ている場合じゃないよ、これは!
「だ、大丈夫ですか!?」
慌てて土手を駆け下り、自転車を起こす。
「大丈夫(セーフティ)よ」
下敷きになっていた人は、そう答えつつ身を起こす。
女の人だ。それも、とても綺麗な人。
肩のラインで揃えた黒髪が西日を浴びて艶やかに輝いている。
「なんだか左足が変な方向に曲がっているような気がしますが」
「気のせい(フィールソウグッド)よ」
深くはつっこまないことにする。
「あら、貴方は……」
女の人がなんだか含みを持った瞳でこちらを見る。
「なんです?」
「いえ、気のせい(ノットハプン)よ」
そっけなく答えられた。
「ところで、貴方は何をしているの?」
「人を待っているんです」
「人(ホモ・サピエンス)?」
「ええ、いつもだったらもう来ているはずなんですけど、なぜだかいないんですよ」
「ふぅん? 彼女(カールフレンド)?」
か、彼女?
「いや、そういう訳じゃあないですけど……」
なぜだろう。心臓が跳ね上がった。
「戦略的(ストラテジック)に判断停止(エポケー)しているのかしら?」
「そういう訳でもないと思うんですが……」
「でなければ心(ハート)に蓋(タッパー)をしているのかしら?」
「さあ、判らないです」
そういうことは考えたこともなかった。
今までの僕は、先輩の事しか頭になかったのだから。
女の子とどうこう、なんてのをしたことはなかったし、するつもりもなかった。
僕は、先輩の事だけを考えていればよかったんだ。
でも、みっちゃんと出会って、初めて、先輩以外の女の子と仲良くなった。
それは、僕たちが『能力』という共通項を持っていたからだ。
MICとしての仲間。それがたまたま女の子だっただけ。
本当にたまたまだ。みっちゃんが朗らかな性格だったのも作用しているとは思う。
「きちんと気づかないと、自分も相手も不幸になるだけよ」
自転車を土手の上まで引き上げて、その女の人は言う。
ちなみに自転車には何の損傷もなかった。
「答え(アンサー)を見つけなさい。それが貴方の力(エナジー)になる」
そして自転車にまたがり、
「仕事(ミッション)があるから行くわ。ではね、少年(ヤングメン)」
よくわからないまま、女の人は去っていった。
後に残ったのは、胸の奥のモヤモヤだけ。

―つづく―

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