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君と見る虹エピローグ 〜みっちゃんの独白

私の『能力』は、『動物と会話ができる』こと。
それはつまり、『動物の声が聞こえる』ということ。
大きな動物は無理だけど、その辺りにいる小動物ならみんな声が聞ける。
違うなあ。聞けるじゃなくって聞こえてくる、かな。
私は、この『能力』を呪った。
他の人みたいに「わんわん」とか「にゃーにゃー」がよかった。
でも、それは叶わない。
だから私は、そこから逃避することを選んだ。
なるべく人の声を避けた。動物の声も避けた。
小学校の頃は、おとなしいだけの子でいた。
中学になる時、これじゃあ駄目だと思ってちょっと頑張ってみた。
周りに明るく振舞うようになった。ちょっと無理をしてたけど、評判はよかった。
小学校の私を知っている子からは嫌味を言われたりしたけど、大したことはなかったかな。
動物の声も、少しずつ制御して聞ける様になってきた。
それでも、直らないものが一つだけあった。
人間に対する不信感。ずっと私の根底にこびりついているもの。
私が心を許せる相手は少なかった。
育ててくれた両親。どうやら私は彼らの本当の娘じゃないみたいだけど、本当に感謝している。
最近入ってきた(けど辞めた)アルバイト、ソワカちゃん。達観しているというか、
彼女は人の定理が当てはまるのかすらわからない。すごい子だ。素直に尊敬する。
それに、しゅんすけ君。とっても真っ直ぐで純粋な男の子。
しゅんすけ君に会うたびに、惹かれているのに気がついた。
名前で呼ぶのが恥ずかしくて、しゅん君と呼ぶことにした。
呼んでみて、私はこの呼び方が気に入った。
私だけの彼の呼び名。なんだかとってもこそばゆい。
その事をソワカちゃんに時々からかわれたりした。
一日ずつ、私としゅん君の距離は縮まっていった、と思う。
でも、それは思い違いだったらしい。
最後の日、彼は言った。「友達」だって。
私が欲しかったのはそんな言葉じゃない。
確かに本当の友達はいなかった。
でも、しゅん君とは、友達よりもなりたかったものがある。
なりたかったものが、あったんだ。

「あらら、どうしたの?」
川原で座って待つ。あの人を。このところ、毎日会っていた彼を。
やってきたのは、彼じゃない。むしろ、人でもない。
「おねーちゃん、昨日はありがとう」
「お礼なんていいよ。無事でよかった」
昨日、ちょっとした事件があった。
子猫のミーちゃんが行方不明になっている、ということだった。
そのことを聞いた私は、周囲のみんな(動物)と協力して、なんとか見つけ出した。
何のことはない。塀の間に挟まって動けなくなっていただけ。
まあ、あのまま見つけなかったら餓死しちゃったかもしれないから、見つかってよかったよ
「ううん。ミー怖かったから。ほんとにありがとう」
「うん。これからは無茶しちゃ駄目だよ」
「うん!」
こんな風に会話できるのも、ある意味あの人のおかげだ。
私の心にこんなに平穏をくれる。
少し前の私なら、そんなに心に余裕はなかったはず。
「おねーちゃんは何しているの?」
「人を待ってるんだ」
「それって、彼氏?」
ぶっ。子猫がそんなことを言いますか。
「いやー、違うと思うなあ。望みは薄いかも」
「ふーん。振られた?」
「それも難しいなあ。彼、どうやらすっごく鈍感らしいのよね」
「大丈夫だよ。おねーちゃんなら」
「どうして?」
「すっごく優しいもん」
「ふふ、ありがとう」
自然に笑えるようになったのは、いつからだろう。
彼と出会ってから?
「じゃあ、おかーさんが待っているから行くね」
「うん、またね」
「バイバイ、おねーちゃん」
子猫は去っていった。また、私は一人だ。

「彼が来るよ」
言ったのは鴉だったか。
そのすぐ後、彼はやってきた。
そして、私の一番聞きたかった言葉をくれた。
嬉しくて、泣いてしまった。
嬉しくて泣く、なんてことが本当にあったなんて!
こうして、私と彼は、いわゆる『恋人同士』になったんだ。

「ラーメンお待ち!」
その日も、当たり前のようにホープ軒に寄る。
なんだかちょっと恥ずかしい。
いつものようにラーメンを食べ、一息。
彼はいつもゆっくり食べる。
今度、私がつくったラーメンをご馳走してあげよう。
そんな事を思って、こんな穏やかな私に苦笑してしまう。
「どうしたの? なんだか嬉しそう」
それが、彼には笑みに見えたらしい。
「うーん。嬉しいよ、いろいろと」
今度こそ本当に笑う。彼もつられて笑った。
「あ、そうだ。昨日みっちゃん言ったよね」
「?」
「僕の『能力』も絶対役に立つ時が来るって」
ああ、そんなことも言ったと思う。
「うん、言ったけど、どうしたの?」
「もう、役に立っていたんだ」
え?
「どういうこと?」
「僕とみっちゃんが出会えた。それに、今こうして一緒にいられる。
 それは僕の『能力』のおかげだよ。とっても役に立った」
彼の顔が赤くなる。ラーメンのせいだけじゃない。
勿論、私の顔だって赤くなっている。
「と、とにかく!」
恥ずかしいセリフすぎたのか、彼は仕切りなおした。
「これからもよろしくね、みっちゃん」
「うん、よろしく、しゅん君」
私達の物語は、これからもまだ続いていく。

―終幕―

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